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久しぶりにお得意様に会いました。
「朝日館!元気だったか?大変だったなぁ・・・・・・」 そうおっしゃって、無言になりました。しばらく言葉を探していらっしゃるように見えました。 そして 「朝日館が無くなって・・・・・おもしゃぐね・・・・」 って、泣きそうな声でおっしゃいました。 おもしゃぐねっていうのは、このあたりの方言で面白くないということ。 「朝日館が無くなって、いろいろなところを使っているけど、朝日館みだいな所は無ぇ…。頼むから旅館を再開してけろ(くれ)」 嬉しかった。涙が出るほど嬉しかったです。 そのお客様には、いつも接待に使っていただきました。 お帰りになるのは、必ず夜中過ぎでした。何時になっても、おっとっとがご自宅まで送って行きました。 我が家では、姑の代から(もしかしたらその前の代からかもしれません)お客様に 「お帰りください」 と言ったことがないのです。 「まだ帰らないのかなぁ・・・・・」 と心の中でつぶやきつつ、半分居眠りしながらお帰りになるのを待っていました。 時には夜中の2時ごろになっても帰る気配がなく、催促したいと思ったことが何度もありましたが、宴会のお部屋に行くとお客様がとても楽しそうにお話をしているので、お帰りを催促できませんでした。 「あのなぁ、ほかの所を利用したら21時には出されてしまうんだ。朝日館なら何時でも嫌な顔しねぇで酒出してくれたのになぁ」 そういうお話を聞くと、姑の商売方法は間違いなかったと確信します。 私のやり方は姑が教えてくれたままなのです。 それは、自分の都合よりもお客様の都合を考えること。簡単なようでとても難しいことでした。 姑は、とても優しい人でしたので、利益など考えずにサービスに徹していました。 「そこまでお客様に媚びなくても良いのに」 と、若い時にはずいぶん思いました。 姑が亡くなって、私が女将になった時、お手本は姑でした。いつも、なにか困難にぶつかると 「姑ならどうしたかな」 ということが、私の判断基準でした。 自分が女将になってはじめて、姑が媚びていたわけではないと気がつきました。姑はお客様が喜んでくれることをしていただけだったのです。 そして、今、改めて、姑に教えてもらった商売の方法は間違っていなかったと思います。 「朝日館、再開してけろ(くれ)」 という言葉は、何よりの嬉しい言葉でした。
by asahikanokami
| 2012-10-05 20:12
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