被災後、誰からともなくこんな会話が飛び交いました。
「カラスがいっぱい飛んでいる下を探すと、遺体があるらしいよ」
「遺体捜索の時には、カラスがいる下を念入りに捜索するんだって」
ウソかまことかと、半分疑っていたのですが、毎日、避難所のそばの瓦礫にカラスが来るのが気になっていました。そしたら、悲しいことに、瓦礫の下からお子さんの遺体が見つかりました。
福島県は、山脈が二本縦に走っているので、浜通り、中通り、会津地方と三分割されます。
中通りの人から、昨年は中通りではカラスを見かけなかったと聞きました。今年はいつも通りにカラスがいるそうです。
「たぶん、カラスが浜通りにお弔いに行ったから見かけなかったんだねって話していたんですよ」
と、その方は言いました。
松谷みよ子さんの絵本の中に、カラスのお坊さんの話があったと思います。
すこし むかし からすがたくさんいる 村があって、男たちは みんな戦争にいきました
戦争でたくさんの人が死んでいったのです
するとその村から からすが一羽もいなくなったのです
ひとりのおばあさんが言いました。
「からすは 海をこえて おとむらいにいったんだよ。からすがぼうさまになって おらたちの代わりにお経を上げに、南方へ行ったんだよ」
そして 戦争が終わるとまた元のように、村にからすがもどってきました。
こんなお話しだっと思います。
黒いカラスは、お坊様の黒い衣のように見えるからか、昔話に出てくるカラスは死と結びついていることが多いです。
もし、昨年、中通でカラスを見かけることが少なかったとしたなら、それはきっと、浜通りにお弔いに来てくれていたからでしょう。
びっくりするぐらいの数のカラスが、朝に夕に空に舞っていたのを思い出します。