元朝日館の女将のてんてこ舞日記


東日本大震災で被災した小さな旅館の女将の日々
by asahikanokami
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話さないよ!

今年の夏、ある大学の学生さんからマイタウンマーケットの話を子供たちから聞きたいと言われました。
もちろん、すぐに承知をして、子供たちに
「大学生のおにいちゃんやおねえちゃんが来るからマイタウンマーケットの説明をしてくれる?」
と頼みました。

当日、子供たちは息せき切って下校してきました。ランドセルを背負ったまま集会場に飛び込んできました。
自分たちがやっているマイタウンマーケットのことを、大学生が聞きに来るというので、どの子も誇らしげな笑顔でした。

挨拶がすんで、ちょっと雑談をして、場が和んだ頃に一人の大学生が
「津波は見たの?」
と聞きました。
すると、今まで笑顔だった男の子の顔が険しくなり
「津波の話なら話さないよ!」
と、とても強い語気で言ったのです。

「マイタウンの話ならするけど、津波の話なら帰る!!」

大学生は相手が小学生だったから、きっと、深く考えずに軽い気持ちで聞いたのだと思います。
その強い語気に圧倒されたように次の言葉を失い、顔面が蒼白になりました。
聞いてはいけないことを聞いてしまったと後悔しているのが、その顔の表情から見て取れました。

いつもは元気な子供たちです。
いつもは明るい子供たちです。

でも心の深いところに津波が影を落としているのがわかりました。

昨日は、月曜日でエコたわし編み隊の例会がありました。
20名ほどが集まって、ワイワイと編み物をしました。

最近、ポツリポツリと津波の話をする人がいます。
でも津波の話をする人は少ないです。

反対に毎週大笑いしながら話すのは、被災前の思い出。

「〇〇じいさんは、花を作るのがうまかったなぁ。いっつも美しい花を庭いっぱいに咲かせていて、あの家の前を通るのが楽しみだった」

「んだ、んだ。そして花を褒めると、いだましがらないで(もったいないと思わないで)切ってくれた」
「死んでから10年は経つどな」
「もう早、15年にはなるべ」

「うちの近所が集まって、毎年暮れには餅を、10臼ぐらい突いた」
「んだがら(だから)あんたは餅つきの相取りがうまいんだべ」
「つきたての餅にジュウネン(えごま)を磨ってつけて喰った。んめぇがった(おいしかった)」
「あぁ、ジュウネン餅はうめぇ~~」

「11月は安波神社のお祭りだったべ。通り神楽が通って、神輿が禊のために海に入って・・・・」
「漁協の婦人部の余興があって・・・」
「あの余興の練習、大変だったけど楽しかった・・・」

思い出話は尽きません。
いろいろなことを、同じ経験した人に話すことが、一番の心の癒しになるのだそうです。
同じ経験をしたからこそ、同じ悲しみや心の傷があるからこそ、理解し合える、理解してもらえます。
わかってもらえたという安心。それが心を平穏にしてくれるのかもしれません。

「話さないよ!」
と言い切って、ほかの子供の心の動揺を守った彼。
「大人になったなぁ」
と、その成長が嬉しかったです。

by asahikanokami | 2012-11-20 10:55 | 避難生活
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